『オルフェウスの窓』感想〜感情移入しすぎると切な死する〜
久々に池田理代子さんの大傑作、『オルフェウスの窓』を読み返したところ、
感情が揺さぶられすぎてえらいことになってしまったので想いをぶつけたくなりました。
『女帝エカテリーナ』も読み返したので、ロシアへの憧憬がすごいことになったGWでした。
私と池田理代子先生
実家に置かれていた母の『ベルサイユのばら』、これがまさしく私が読んだ人生最初の漫画です。
幼すぎてフランス革命もろくに理解できておらず、「ドレスがかわいいな〜」くらいの感情しか抱いていなかったと思うのですが、ただ、ドレスを着たオスカルの姿に当時からめちゃくちゃ心を揺さぶられ、ここから何か異性装への憧れだとか、今現在の耽美好きに繋がってきている気がします…
(外伝の黒衣の伯爵夫人もめちゃくちゃ好きだった…妖しい美人が大好きなのは子どもの頃からなんだな…)
だんだんと年齢を重ねて内容を理解できるようになったことで、フランスの歴史自体に興味を持つようになり、大人になってもそういう文化が大好きな人間に育ちました。
ロココ美術を学んでみたり、男装した女性が出てくる少女漫画を読みまくってみたり、私のそんな行動のすべての原点は、まさに「ベルばら」!
『オルフェウスの窓』は、そんな「ベルばら」と違い、大人になってから読んだ作品なので、原点というより私の人生の通過点(というにはあまりに重厚すぎる体験だったけども)、言うならば「ベルばら」に育てられた私が郷愁とともに読むことができる、復習テストのような作品なのです。
ここからはがっつり感想です。
※ガンガンネタバレしていきます。未読の方は要注意。
登場人物の立体感がすごい。もう4DX
著者のすべての作品がまあそうなんですけど…人物の描写が細かすぎてもう彼らの心情を痛いくらいに推し量ることができるんですよね…
結構激情型のキャラクターが多いので、現代の私たちからすると「そんな行動しちゃう?!」と思えるようなものもあるのですが、今まで読み込んできたそのキャラクターの人生や性格を思えばなんら違和感はない。むしろ当然。
まさに主人公・ユリウスの行動はかなり感情的で、そのために自らを窮地に追い詰めてしまうこともあり、見ているこちらとしては「あんた何でそんなことを!」と言いそうになるのですが、共感はできずとも、ユリウスの人生や価値観においてはきっとあの選択が正解なのだ、とすっと納得してしまうのです。
だって私には「父親の家の財産をのっとるために母親に男装させられて生きてきた」経験なんかないからね…
愛する人を追いかけて祖国もすべて捨てて1人ロシアへ、なんて、正直100回生まれ変わってもできる気がしない。東京・大阪間くらいが限界かな…
そんな私にはできない情熱的な生き方をする登場人物たちだからこそ、惹かれるものがあり、彼らの想いに心打たれ、共に生きているような感覚にすらなるのだと思います。
ちなみに私の特に好きなキャラクターベスト5は…
(ユリウスは別格です。もう好きすぎて辛い目にあって欲しくなさすぎて読むの辛かった…)
5位:ダーヴィト・ラッセン
いい人だから…。
彼が生きていてくれて本当によかった。作中の希望の光です。
後輩を誤魔化すためにキスするところとか、理想の先輩キャラクターすぎてめちゃ萌え委員長でした。
真面目にユリウスは、彼の愛情によって手に入れられた心の安寧が確かにあったと思うし、最終的な結末でも顔の好みが終始一貫していてとてもよかったです。
4位:アナスタシア・クリコフスカヤ
強い人ですよね。
その愛ゆえに革命の渦に身を投じるなんて、もう情熱的すぎて苦しくなるほど。
同じく革命家と恋に落ちた姉のアントニーナとの対比がとても印象的でした。
アントニーナもそのエゴと愛の深さが絡み合っている感じがとても好きです。
本作はどんな愛し方をしたとしてもその決着には関係ないことが、あまりに残酷です…。
3位:フリデリーケ
ロザリー好きだったらみんな好きよね。子どもの頃はロザリーが一番好きでしたわ。
こんなに愛しい、そして儚い妹は彼女以外にいません。
自分をどこまでも律して、ひたすらに律して、イザークの幸せだけを願った少女…。
モーリッツのアプローチは、最初はあら可愛いわね、という感じで、後半はマジでいい加減にしろよ…と思っていたのですが、結末はモーリッツも大変にかわいそうなのでモーリッツ母おい、と思いきやモーリッツが悲しんでるからモーリッツ母も悲しいよね…という思いに至ってしまい、その怨恨が行き着いたのは人間のカルマでした。
2位:レオニード・ユスーポフ
「鉄の男が、初めて誰かに心を開く」、というのがとても好きで…
ただ命じられたから帝政を守っているのではなく、自分が時代の流れに逆行した存在であることを認識し、それでも意志を曲げないところがひたすらに美しい。
ユリウスへの想いが徐々に生まれていく様子は本当に愛おしかった…。一生このままユスーポフ候と甘々に暮らすユリウスも見たかったです。
結局真に安らぐことのできないユリウスにとって、記憶を無くしたまま絶対的な自身の保護者であるユスーポフ候といた時間は、数少ない安息の日々だったはず。
また、アデールがユスーポフ候の元に帰ってくるシーンは、彼女の気高さを感じて胸が熱くなりました。
1位:マリア・バルバラ・フォン・アーレンスマイヤ
ひたすらに女主人でかっこいい…!!
最初は苦手だったマリアねえさまですが、徐々にユリウスに対して肉親の情が芽生え始めたり、ゲルトルートに優しく接したりする姿を見るにつれ、もう大好きなキャラクターになってしまいました。
顔が似ているマリアとユリウス。ヴィルクリヒ先生を一途に慕い続けた姿もさすが姉妹といったところ。
アーレンスマイヤ家の生き残りとして、様々な苦労に耐え、きっと物語終焉後も終わらない奮闘があったでしょう。
ダーヴィトとの出会いによって、少しでも幸せに触れられていたらいいなと願ってしまいます。
はい、3人も女性がランクインしました。
根っからのイケメン好きなもので、こういうことを考えると真っ先にイケメンが浮かぶのですが、本作に至っては女性キャラクターが素敵すぎる!
ロベルタもいれたかったー!アネロッテねえさまも妖しさたっぷりで大好き…。
みんな信念を持って愛に生き、人によっては愛に死んでいく…。激動の歴史のなか、愛を貫く女性の力強さには敬服するしかありません。
ベストオブイケメンは、と問われたらラインハルトです。昔は女装させられていたこととか、あの罪深さが何とも言えない、そして魅惑のロン毛が美しい。
悲劇だからこそ
『オルフェウスの窓』の伝説通り、愛に生きた人たちが次々と引き裂かれていってしまう本作。
感情移入して読んできたキャラクターたちが死んでしまうのはとてもつらかったです。
そして何より、お互いを愛するがゆえに起こした行動が、2人の破滅を導いてしまうなど、あまりに皮肉な演出も…。
ただ、強大すぎる歴史の渦に翻弄されながらも、愛だけは見失わなかった彼ら、その人生を「悲劇だからこそ美しい」なんて言葉でまとめたくはないけれど、人間は困難な状況においても何か心に刻んだものがあるだけで強くあれるのだな、と感じました。
読み返すのにかなり胆力が必要な作品ではありますが、読了後にはいつも登場人物たちの美しさに魅了され、存在感に打ちのめされる、人生に必要な漫画です。